:右手は「拳」で押し「手刀」で引く!
社交ダンスとは、まったく関係なさそうなのが、太極拳。
そして、合気道もまた、関係なさそうに見えます。
さて、右手に矛、左手に盾。 右手は攻撃、左手は防御・
右手の拳(こぶし)を、左手の掌(てのひら)で受け止める。(左手の掌の中に収める)
この左右非対称な動きが、とても合理的であることは、前のページで説明しました。
中国3000年の歴史なのかどうかわかりませんが、「すごい」ことだと思います。
攻撃側の右手の拳(こぶし)の第2関節を「正面」に向け、拳(こぶし)をボディから遠ざけていく。
遠ざかっていく右手の拳を、左手の掌(てのひら)で、包み込むように掴む。
(両手が離れていても、その感覚があれば良い)
そういう、攻撃側の右手の拳が、動く方向を決定し、防御側の左手の掌が、右手の拳を追いかけようとすることで、ボディが、いろんな方向に進んでいく。
この原理を上手にボディを動かすと、「ものすごく軽い、ボディの動き」が実現する。
ただし、一つだけ、大きな「欠陥」がある。
右手の「拳(こぶし)」は、押し出すことは出来るけど、手前に引くことが出来ない。
そこで、登場するのが、今回の「右手の手刀(しゅとう)」です。
右手の「小指側の角」を、「刀」に見立てて、曲線を描きながら(螺旋?)、手前に引いていく。
それを左手の掌(てのひら)で包み込む。
そうすると、ボディが、手に連動して動いていく。
日頃、「社交ダンス」でやっている動きと「似たような原理の動き」が、どこかにないか?
と探していたら・・・あった!!! 合気道の中にあった!!!
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改訂 合気道独習教本
・著 者:: 植芝吉祥丸(著)・植芝守央(監修)
・発売日:2000年11月
・出版社:東京書店
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内容紹介(「MARC」データベースより)
合気道の基本技から応用技までイラストで分かりやすく解説した教本。
基本の準備動作、呼吸力養成法、基礎の投げ技や固め技、歴史や現況まで詳しく説明する。
73年刊「絵説合気道独習教本」の改題・改訂。 |
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改訂 合気道独習教本 24ページ
2章 実技への予備知識
技法鍛錬の要点
手刀とは |
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一般的に手刀とは、手を十分に開いて刀状に用いた場合のひじから腕先の部分までをいうが、それはさらに手刀部、尺骨部、橈骨部となる。
相手に対する加撃の場合、小指のつけ根の部分から手首にかけての部分(手刀の部分)を、もっとも多く用いる
手刀は、全身の力の集約点である、人体の重心から働く力を直結させているため、正しい体の動きによってこれを使用した場合、合気道でいう力強い呼吸力の発揮となってくる。
(下に続けます) |
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続き・・・ |
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「合気道の動きに剣を持たせれば合気剣法になる。
その動きは剣理に即している」と創始者はたえず説明してきた。
故に徒手における合気道の手は剣そのものであり、つねに手刀状に動作しているのである。
その意味で合気道ほど手刀を使用している武道は、他に例がない。
手刀の基本動作を、正面、外回し、内回しとする。
これより体の変化にともなう動きをみると、たとえば後方への転換によって、手刀も螺旋(らせん)状に回るように変化するのである。
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さて、この「手刀」というのが、想像以上に「すごい」です。
どれだけ「すごい」か、説明していきましょう。
■ 手刀(しゅとう)の効果を利用して、社交ダンスのホールドを作る
太極拳の本では、右手は「攻撃」の手であり「拳・剣・矛」に相当。
左手は「防御」の手で、「盾」に相当すると書いてありました。
一方、合気道では、あまり(というか全くというか)、左右の違いには、触れていないようです。
でも、ここでは、太極拳を考え方に従って、
「右手の手刀(しゅとう)」を「左手の掌(てのひら)」で包み込む
と、どうなるか? ・・・・ということを、考えてみたいと思います。
「手刀とは、手を十分開いて刀状に・・・・」とあります。
おそらく、合気道の「攻撃(加激)」の際には、腕の位置を自由自在に動かす必要があるので、手刀を作る際には、指を開いておく必要があるのだろうと、察します。
でも、4本の指を揃えた場合においても、指を開いたときと同様に(もしくはそれ以上に)、手刀として機能する。 そんな腕の位置は、いくつか存在するはずです。
おそらく、【姿-51】は、指を揃えると、手刀にならないけれど、動き出せば手刀になる。
【姿-52】【姿-53】は、手刀になってる腕の位置だろうと思います。
そして、手刀の状態をキープしつつ、両腕を広げていったのが、【姿-54】
おそらく、これは、踵(ヒール)を浮かせた時(踵のある靴を履いたとき、もしくは踵を浮かせて内踝に体重を掛けたとき)に出現する「腕が手刀になりえるポジション」であり、裸足で踵(かかと)を地面に付けているときには、このポジションでは、「腕が手刀にはになり得ない」と思います。
4本の指を揃えて、「手刀を作れる腕の位置」は、かなり限定されるため、4本の指を揃えると、攻撃には使えません。
しかしながら、両腕・両肘を持ち上げて、4本の指を揃えた状態で、手刀を作ることが出来たとすれば、その位置で腕を固定させることが出来るはずです。
「4本の指を揃えて、手刀をキープしている限り、両腕・両肘は、上下方向には動かなくする」
これこそが、社交ダンス(スタンダード種目)のホールドだとしたら、どうでしょうか?
ラテン種目においても、例えば、キューバン・ルンバの男女のコンタクトにおいて、
「女性が右手で指を揃えた手刀を作って、男性の左手の掌(てのひら)で包み込む」
のと、実質的に、まったく同じコンタクトを取って踊っている人がいる。。。。かもしれませんね。
■頭の中で「右手は手刀!」と思い浮かべるだけで、動きが大きく変わる。
さて、この「手刀(しゅとう)」。
想像以上というか、想像を遙かに超える効果がありそうです。
太極拳の本に書いてあった「右手は拳(こぶし)を、左手は掌(てのひら)で受ける」パターンだと、外見上は「右手はグー、左手はパー」になります。
これだと、、左と右の違いを知らない人が見ると、「この人、なにやってんの??」という悪印象を持たれるかもしれません。
だけど、「右手は手刀(しゅとう)を、左手の掌(てのひら)で包む」パターンを、両手を離してやった場合は、外見上は「右手はパー、左手もパー」です。
どっちも「パー」なので、左右対称に見えますが、「ただ漠然と両手をパー」にしている人と、「右手は手刀のパー、左手は手刀を包むパー」を意識している人とでは、「ボディの動き」の正確さや安定性に、桁外れな違いが出てくるはずです。
比べてみましょう
ボディの左斜め横にボールを置いて持ちあげる。
「右手の拳・左手の掌」だと、へそはボールの方を向きます。
両手を「パー」にして、ボールを掴むときは、頭の中で「右手は手刀を、左手で包む!」と思い浮かべるだけで、へそはボールの方を向きます。
こちらは、へそが反発して、へそが右を向くパターン。
「左手の拳・右手の掌」にすると、大抵は、へそは右を向いて、ボールから逃げていきます。
ただ漠然と、両手を「パー」にして、ボールを持ったとき、このパターンになる人は多いはずです。
では、今度は、右手に箒(ほうき)を持って、立ち上がる実験をしてみましょう。
以前、とりあげた実験です。
左手に箒(ほうき)を持った時には、両膝を地面に着けなければ、立ち上がれない。
だけど、右手に箒(ほうき)を、立ち上がることが出来る。
なぜだ? 右手の小指側の側面と箒(ほうき)との接線が「手刀」になっている。
ちなみに、右手の手刀(つまり、右手の小指側の側面と箒との接線)を、離れた左手の掌(てのひら)で包み込むようにすると、軽く・静かに立ち上がれるようになる。
原理がわかってしまえば、何度かやってみるのみ! やってみるとわかる。
合気道の場合の起立は、【起立-82】の時点で、左足の爪先を立てているかもしれない(未確認)
「静かに立つ」「静かに座る」を繰り返し、姿勢を正して座っていれば、自然に「右手の手刀を左手で包む」のと同じ姿勢が出来上がるような気がする。
ちなみに、椅子に座ったところから、箒(ほうき)を持って立ち上がろうとしても、うまくいかない。
椅子に座ると、姿勢が変わるので、立ち上がるときに「右手の手刀」を作ることができない。
正座したときと同じ事を、椅子に座ってやろうとすると、失敗する典型的な例だと思う。
正座したときには「右手の手刀」が作れるけど、椅子に座ると作れなくなる。
これが原因だろうと思う。 そんな例はたくさんあるはずです。
■日本の社交ダンスでは、「右手に手刀」は、あり得ない・作れない!!
それでは、日本(あくまで日本国内、欧米のダンサーは除く)の社交ダンス(スタンダード種目)の基礎の中に「右手に手刀」の概念があるかどうか、調べてみましょう。
両手を広げて、上腕を後ろにひねった時点で、「右手に手刀」は作れないはずです。
トッププロのランクアンプ・レクチャーは、「右手に手刀」を作れないようにしておけ!
と言っているのと同じです。
「右手に手刀を、左手の掌で包み込む」ときは、踵から左右の肩甲骨までは、「T」の字になります。
肩甲骨から両肘までは、「T」の字にはなりません。 だから、日本ではこれはNGです。
日本のトッププロのレクチャーは、肘を真横に張るので、踵〜肩甲骨〜両肘が、「T」の字になります。これが、日本の社交ダンスの基本です。
本来の「相撲のテッポウ」は、「腕を返す(かいなをかえす)」という動作があるはずで、これによって、腕というか掌(てのひら)の小指側が「手刀」になるはずです。
ところが、日本のトッププロが言う「踊るためのカラダ」には、「腕を返す」動作がありません。
この絵のような動作では、「右手に手刀」は、絶対に作られることはありません。
これは、女性のホールドの作り方です。
「頭の重みは左へ、骨盤の重みを右へ」と書いてあります。
このホールドは、「左の肘を真横に張って、右手を遠くに伸ばして、男性の手を握ってやる」ことで、簡単に作ることができます。
たったこれだけで、自然に、頭の重みは左に移動(肩甲骨も左へ移動)し、骨盤は右に移動します。
でも、「右手に手刀を左手の掌で包み込む」イメージで、女性のホールドを作れば、頭は、これよりももっと、左に持って行くことが出来ます。
・右手に手刀を作るイメージで、男性の左手とコンタクトします。
・右手の手刀を、男性の背中から手を回して、左手の掌で包み込むようなイメージで、左腕をセッティングします。
・骨盤を「右」ではなく、「左」へ移動させようとします。
・骨盤を左へ移動させようとしても、骨盤は動きません。かわりに頭が「左」へ動いていきます。
つまり、日本の元チャンピオンと「正反対」のことをやっても、ホールドを作れるということです。
個人差はあると思いますが、「こっちのほうが、安定する」人は、少なくないはずです。
左右両方の肩甲骨を肩甲骨を左に寄せた姿勢が、ほんとうに「真っすぐ」なのでしょうか?
肩甲骨を左に寄せて、左肘を伸ばした姿勢は、非常に不安定なはず。
左手の橈骨部(とうこつぶ)に、軽く息を吹きかけてやるだけで、ぶっ倒れそうな気がします。
「真っすぐ」というのは、一番倒れやすい姿勢であり、「動く」と言うことは、「意図的に、まっすぐな姿勢を崩すこと」だ!...という考え方もあるので、これで正しいのだろうと思います。
これらは、、イギリスに長期留学して、本場イギリス人のレクチャーを受けてきた日本人のトッププロ(チャンピオンクラス)の人たちが教えている「社交ダンスの基礎」であることに、着目してください。
例外なく、、合気道の「右手の手刀」の考え方を、全面的に否定しているように感じますが、どうでしょうか?
そんな中で、「社交ダンスも、右手の手刀の原理を使っている!」と主張したら、どうなるか?
「地域全体から、つまはじき」というか、「技術的、村八分」というか、そんな感じになります。
でも、大切なのは、合気道の基礎とも言える「右手の手刀」の合理性と、その特徴。
欧米人の「世界のトッププロ」が合気道でいう「右手の手刀」を使っているのか、使っていないのか?
ひとりひとりが、それを「見分ける」ための技量を身につける(目を養う)事だろうと思います。
■合気道の歴史
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改訂 合気道独習教本 228ページ
7章 歴史と現状 |
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合気道は比較的新しい武道である。
古流柔術、槍術、剣術などに基づいて植芝盛平翁が血のにじむような研究の結果、大正末期から昭和の初めにかけて完成させたものである。
したがって、この道はわずか50年の歴史と言える。
だから、この開祖・植芝盛平翁の一生が、このまま合気道の歴史でもあるのだ。
そこで、合気道の歴史背景を第一歩として・・・<以下省略> |
別ページの年表をみると、「合気道」と呼称したのは、1942年(昭和17年)と書いてあります。
例えば、「武士の真剣勝負(負けると死ぬ)」である「剣術」が、士農工商の身分制との廃止により、「竹刀で勝負(負けても痛いだけ)」する「剣道」として形を変えていったのとは、大きく背景が異なるようです。
一人の人間が、一代で、「一つの武道」を作り、それが世界に広まるということは、それだけの魅力があるということだと思いますし、それだけ、やっていることに「スジが通っている」ということだと思います。
興味深いのは、ちょうど、そのころから戦前に掛けて、「社交ダンス」のブームがあったということ。
ただし、その頃「社交ダンス」を踊る人たちが、「血のにじむような研究」をしていたかどうかは、知る余地もありません。
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《 尺骨部と橈骨部の役割 》
合気道は、尺骨部(しゃっこうぶ)とか、橈骨部(とうこつぶ)とか、難しい言葉を使ってますね。 こんなの、ふりがなを付けなければ、読めない!
その場所をあらわす、「もっと、わかりやすい言葉」が、あれば良いのですが、都合のいい言葉は、無いですね。
尺骨部と橈骨部の役割
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