2-05:【玉虫色の奥義】左手の親指は、「鼻の頭」に向けておく
社交ダンスのレクチャーは、多くの先生が行っていますが、「左腕の使い方」に関するレクチャーは、「非常に珍しい」というより「極めて珍しい」。
そんな中、「画期的なレクチャー」がありました。 田中英和先生です。
レクチャーの内容は、極めてシンプル。
「こんなことして、なんになる!」と言いたくなってくるくらい、シンプルです。
このレクチャーをやることで、どういうメリットがあるのか?
そんなことには、さっぱり触れられていません。
【田中1】左手の4本の指を閉じて、左手の親指を「鼻の頭」に当てる。
【田中2】掌(てのひら)の方向を変えて、掌を正面に向ける。
【田中3】掌(てのひら)を正面に向けたまま(これ、重要)、左腕を横に開いていく。
ただ、それだけです。
わざわざ、こんなレクチャーをやるということは、これをやれば、「なんらかの効果」があるはず。
しかしながら、実際、この田中英和先生のレクチャーには、致命的な欠陥が存在します。
まず、両方の腕を降ろした時には、両腕の親指は「正面」を向いています。
そこから、左腕を持ち上げると、「左腕の親指は、後ろを向き、掌(てのひら)が顔の方を向く」と思います。
親指が後ろを向いたまま、手首を鼻の前に移動させると、【田中1】のように、親指が「鼻の頭」にくっつくハズです。
そして、ここから、親指を「鼻の頭」につけたまま、【田中2】のように、掌(てのひら)を正面に向ける。
「簡単だよね!誰でも出来るよね!」と、言いたいところですが、これで問題発生!
掌(てのひら)の方向を90度変えて、掌を正面に向けるときに、「左前腕を外旋」させる人もいれば、「左前腕を内旋」させる人もいるということです。
どちらの人も
「自分は田中英和先生と同じ腕の使い方が出来たのだから、自分の腕の使い方は正しい!」
と判断してしまいます。
明らかに「どちらかが間違い(田中英和先生とは違う)」なのに、「全員が正解になってしまう」。
いわゆる「玉虫色のレクチャー」だと言うことです。
■ 田中先生のレクチャーは、「肘を固定して、手首を内側に回転(回内)させる」動き
実際、【田中1】→【田中2】の「掌(てのひら)の向きを変える」動きは、「左手首を外側に回転させているようなイメージ」を持つ人が多いかもしれません。。
でも、実際には、左肘から見ると、「左前腕(肘~手首)を内側にねじれを作る動きです。
手首は、ネジを締める方向、水道の蛇口を閉める方向に回転していますので、「回内」になります。
では、この田中英和先生のレクチャーの「致命的な欠陥」は、
【田中2】左手の掌(てのひら)の向きを変える
・・・というところにあります。
掌(てのひら)を正面に向けたとき、前腕に捻れ(ねじれ)が生じて、前腕の2本の骨(橈骨と尺骨)はクロスします。
2本の骨(橈骨と尺骨)をクロスさせる筋肉は、肘側の「円回内筋」と、手首側の「方形回内筋」があり、どちらかを縮めて(収縮)やれば、前腕は回内(手首が内側に回転)します。
じゃぁ、肘側と手首側、どちらが反応するか? という話。
これでいえば、
【左8】→【左9】のように、「左前腕の肘側(円回内筋)で、ねじれを作る」か?
それとも
【右8】→【右9】のように、「前腕の手首側(方形回内筋)で、ねじれを作るか?
という違い。
個人差があるようですが、どうも、左手は「前腕の肘側の筋肉」が反応しやすく、右手は「前腕の手首側」が反応しやすいような気がします。
でも、左手よりも右手が先に「なんらかの反応する」し、左手が連動するときには、左腕も「前腕の手首側の筋肉が反応する」ことが多いような気がします。
この「腕のねじれ」は、【田中1】→【田中2】と同じ「前腕の回内動作」を、「鼻の頭に手を当てて、掌(てのひら)の向きを変える」動きと同じになるので、「まったく異なる2つの動き」が発生するということです。
■ 《比較1》 両足を揃えたと姿勢から、左足を横に動かすとき
● 前腕の肘側「円回内筋」を使うと、踵(ヒール)が浮き上がって高い姿勢になる。
まずは、手首側の「方形回内筋」を出来るだけ使わないようにして、「円回内筋」を使って、掌の向きを変えてみます
【昇-51】左手の親指に鼻の頭につけて立ちます。4本の指は揃えます。掌(てのひら)は右横を向いています。
【昇-52】左手の親指を鼻の頭につけたまま、掌(てのひら)を正面に向けます。前腕は「回内」します。
前腕の肘側にある「円回内筋」を使って、捻れ(ねじれ)を作ると、
土踏まずが吊り上げられて、踵(ヒール)が浮き上がろうとします。 高い姿勢になります。
【昇-53】左手の親指を鼻の頭の方向に向けたまま、左腕を横に動かします。掌(てのひら)が横に動きます。
さらに、左腕を横に動かすことで、左右のバランスが変化し、右足の外踝(そとくるぶし)に体重が掛かります。 そうすると、反対の足(左足)が動き出します。
【昇-54】左腕をどんどん横に伸ばしていくと、掌(てのひら)の小指側が、脇の下の方向に引っ張られます。
「左手の掌の小指側を使って、右足の外踝に、踏み込む力を加えていく」ことが出来るので、「高い姿勢」を保ちながら、反対の足(左足)はどんどん横へ進んでいく。
● 前腕の手首側「方形回内筋」を使うと、膝と足首の「屈伸動作」になる。
こんどは、「方形回内筋」を使って、掌(てのひら)の向きを変えます。
手首の付け根に、サポーターをつけて、手首の付け根を強く圧迫すればOK。
【昇-151】左手の親指に鼻の頭につけて立ちます。4本の指は揃えます。掌(てのひら)は右横を向いています。
【昇-152】左手の親指を鼻の頭につけたまま、掌(てのひら)を正面に向けます。前腕を「回内」します。
このとき、前腕の手首側にある「方形回内筋」を使って、捻れ(ねじれ)を作ると、
土踏まずが押し下げられて、足の裏全体が床に貼り付きます。
そして、膝と足首が深く曲がります。
【昇-153】左手の親指を鼻の頭の方向に向けたまま、左腕(掌)を横に動かそうとしても、掌(てのひら)は真っ直ぐ横には進んでくれません。 親指が正面を向き、掌(てのひら)が進行方向(左横)を向いてしまいます。 こうなったらはNG。
そこで、【昇-154】のように、右足の踵(ヒール)を高く持ち上げて、膝と足首を伸ばしながら、「胴体(ボディ)を左側に送り出す」ようにすると、胴体(ボディ)と一緒に、左腕が横に動いていきます。
ところが、「ナチュラルターン」を想定して、足を前後に開いた姿勢から
【1】左手の親指を「鼻の頭」に当てて、【2】掌(てのひら)の方向を変えて、【3】左腕を横に開く
をやるだけで、「左足」と「左の脇の下・左肩甲骨」が動いて、ナチュラルターンが出てきてしまいます。
【昇-161】右足を前に出して、後ろ足に体重を掛け、左手の親指を「鼻の頭」にくっつける
【昇-162】掌(てのひら)を正面に向けると、胴体(ボディ)は、前足の上に移動する。
【昇-163】左腕を横(少し前)に伸ばすと、脇腹(肋骨)が引っ張り出され、肩が「右斜め」を向く。
「肩」が右斜め前を向くと、横に伸ばしているハズの左腕が、「へそ・骨盤に対して左斜め前」に伸びる。
【昇-164】左腕を「肩に対して横」、「骨盤に対して斜め前」に伸ばすと、左足が引き寄せられる。
【昇-165】さらに左腕を伸ばすと、左足が左腕の真下に来て、胴体が回転する。
この一連の動きに関与しているのは「広背筋」の収縮です。
広背筋は、「背骨~骨盤や肋骨(あばら)」と、「上腕の肘側の付け根」の「小指側」につながってます。
なので、前腕の手首側を回転させながら、広背筋を収縮させてやれば、脇腹(わきばら)や肩甲骨(けんこうこつ)は、前方に引っ張り出されます。
ついでに、足の裏全体を床に貼り付けたまま、鳩尾(みぞおち)を持ち上げることも、簡単にできてしまいます。
■ 左手の親指を「鼻の頭」に向けたまま、いろんな方向に足を動かしてみる。
このように、田中英和先生の「左腕の使い方」のレクチャーは、「高い姿勢を作るとき」にも、「低い姿勢を作る時」にも、「完全に合致」してしまいます。
田中英和先生が伝えたかった「左腕の使い方」は、どっちだったのだろうか? という疑問が沸いてきます。
「どっちも正解」なんて、あり得ません。
2種類の動きがあるなら、「小学生でも理解できる」ように両方の動きを比較して、「正しいのはこっちだ!」とか言ってくれればよいのですが、鼻の頭に親指をつけて、腕を動かして、それでオシマイ。
少なくとも、「誤解する人」が出てくるであろう、こんな無責任なレクチャー。 どうなっても、し~らない・・・・と!
他人は他人。自分は自分。
こんなときは、どちらが正しいか、自分で考える。
いろいろな方向に足を動かしてみて、バランスが崩れない「左腕の使い方」を見つけるのが一番だと思います。
■ 日本のチャンピオンの「左腕の使い方」をチェックしてみる。
元日本チャンピオンの檜山浩治先生のレクチャーの「ボディトーンのある立ち方」での「左腕の使い方」が、どうなっているか、確認してみましょう。
田中英和先生の「親指を鼻の頭」のレクチャーは、日本のチャンピオンクラスの先生の「左腕の使い方」を調べるため(知るため)の「チェックツール」として機能します。
「ボディトーンのある立ち方」の説明に従って、大胸筋と広背筋に力を入れて引き締める。
その胴体(ボディ)の筋肉の緊張感を維持しながら、
【1】左手の親指を「鼻の頭」に当てて、【2】掌(てのひら)の方向を変えて、【3】左腕を横に開く
をやってみる。どうなるか?
たぶん、右足の膝と足首が曲がり、足の裏全体が床に貼り付き、「低い姿勢」になると思います。
【2】掌(てのひら)の方向を変えた時点で、脇の下にある「広背筋」を緊張して収縮するので、「土踏まずが床に貼り付く」感じになるともいえるし、「広背筋」を収縮させると、前方に鳩尾(みぞおち)が持ち上がるので、腹直筋・大胸筋に力が入ると思います。
左腕を横に伸ばせば、収縮させている広背筋が引っ張られるので、「爪先を伸ばしている左足」が動いていくと思います。
檜山先生の写真を見ると、「右腕を真横に伸ばして、壁につけた姿勢」で、左腕を前後に振っています。
照明の影と、【3】の写真から、右手の位置がわかります。 左腕は力を抜いて降ろしています。
このときの、右腕前腕の筋肉の使い方に着目します。 これは非情に重要です。
たぶん、右腕前腕の肘側「円回内筋」は伸びきった状態になり、右腕前腕の手首側「方形回内筋」が強く収縮するかと思います。
ここから、左腕を持ち上げて
【1】左手の親指を「鼻の頭」に当てて、【2】掌(てのひら)の方向を変えて、【3】左腕を横に開く
これをやるとどうなるか、どうなるか?
右腕同様に、左腕の「円回内筋」が伸びきったまま、「方形回内筋」の強い収縮がおきて、膝と足首が深く曲がり、「低い姿勢」ができあがります。 「広背筋の収縮を意識した動き」になるはずです。
檜山先生の、「CBM」および「レッグ・スウィング」の動きはどうでしょうか?
前述の【昇-161】→【昇-165】の「広背筋を収縮させる動き」と完全一致しているように思えます。
どうでしょうか?
■ どちらにも解釈できる「玉虫色のレクチャー」
そもそも、いったい何の目的で、田中英和先生は、「鼻の頭に親指を当てる」レクチャーを行ったのでしょうか?
田中先生の指導に従って、レクチャーを行うと、ひとによって、「まったく違う動き」が出てきてしまいます。
そんなレクチャーは、マトモなレクチャーと言えるのでしょうか?
欠陥だらけの致命的なレクチャーだと言えます。
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